はじめに

教育の内容

視る、すなわち分子の立体構造を決定する、ということは対象物質を理解するもっとも優れた手段です。

その中心となるのはX線結晶構造解析です。
これ以外にも、電子顕微鏡、中性子線回折、核磁気共鳴などがあります。

より詳細に観察する、すなわち分子がどのような性質を持ち、動きを有しているのかを明らかにするために、分光学や電気生理学などの様々な測定手法を用います。このような実験を精度よく行うためには、自分自身で非常に純度が高く性質の良いサンプルを作るための生化学的な実験も必要となります。

このようにまずは基本的な物理化学、生物化学を学び、研究の最先端技術を学んでいきます。
また実験によって得られたデータや、さらには世の中に溢れかえっている様々な情報をいかに正しく扱うのか、そして、その際にどのようにコンピュータを活用するのか、ということについても学んでいきます。


研究内容

研究のおもな対象は生物発光に関わるタンパク質とイオンチャネルです。


生物発光

蛍やクラゲにみられる生物発光はそのタンパク質分子内部で生じる化学反応によって発光が生じる現象です。大きな特徴として量子収率、すなわち発光基質1分子の反応から1つの光子が発する確率、が非常に高いことが知られています。

しかし、なぜ高いのかその構造的な基盤は全く分かっておらず、化学反応の理解がかなり進んでいる現在でも謎の1つです。これを理解することはエネルギー損失の少ない系を考える基本となります。

生物発光自体はもちろんヒトとは直接関係がありません。
しかし、これを用いると生体内の動きをモニターするツールとして使えることが知られています。しかし、発光強度が弱かったり、使える状況が限られたりということで、どこでも視るということに応用はできていません。

そこで、詳細な反応機構を明らかにし、どうすれば発光強度が強くなるか、使いたいところで使えるようなテーラーメードの発光関連タンパク質を作ることができることを目指しています。

これを明らかにすることを目的に単に分子の立体構造を視るだけではなく、その動きを視るための方法論の開発も行っています。


イオンチャネル

イオンチャネルは、特定のイオンのみを通すことができる細胞膜上の小さな穴(孔:ポア)です。

陽イオンあるいは陰イオンのみを通すことで細胞膜には膜電位と呼ばれる電位差が生じ、これが電気信号となって神経情報が伝達されます。様々な種類のイオンチャネルがありますが、その中でも膜電位感受性ナトリウムチャネルは活動電位の発生をになう重要な膜蛋白質です。そのため、様々な薬剤の標的となっており、身近な例として歯科麻酔などの局所麻酔薬が挙げられます。

よってこれらのチャネルの分子メカニズムを明らかにすることは神経情報伝達を分子レベルで理解するために非常に重要であるとともに、より効果の高い痛み除去の方法の開発に大きく貢献することができます。

 

自然科学、生命科学に興味がある方へ

何のために大学へ進学するか、考えたことはありますか?それほど深く考えたことがある人は少ないでしょう。考えたことがある人はそれで素晴らしいと思います。大学と高校の違いは何でしょうか?こちらも考えたことがある人は少ないでしょう。

この短い文章の中で、”考える”というキーワードが4回も出てきました。大学とはゆっくりと物事を考えることができる空間と時間を持ったところだと考えています。もちろん、最低限の知識を身に着けるということも重要ですが。

自分が知りたい、明らかにしたい、と思う題材に見つかれば、自然と勉強するようになります。これは受験勉強との大きな違いです。こうなればしめたものです。どんどん勉強が楽しくなります。そして研究していろんなことを明らかにしたい、という思いがどんどん募っていきます。ぜひ、研究を楽しんでください。”楽”という字は”らく”とも読めます。しかし、”らく”ということはないと思います。正直に書いておきます。でもこれから世の中を過ごしていくことを考えても、ただ単に”らく”ということはあり得ません。何らかしんどいことがあります。ですので、好きなことを楽しく過ごせる道を選んでもらえれば良いと考えています。

 

「はじめに」の中で、簡単に生物発光現象の紹介をしました。わかりやすく言えば、ホタルが黄緑色に光っている現象です。この反応はホタルが持つ発光の素になる”ルシフェリン”が”ATP”、”酸素”とともに反応し、”オキシルシフェリン”という発光体になるときに発光が生じます。ただし、”ルシフェリン”、”ATP”、”酸素”が混ざっていても光りません。そこで、ホタルが持つ”ルシフェラーゼ”と呼ばれる反応を手助けする酵素が用いられることで、発光反応が進行します。ルシフェラーゼと発光体などの立体構造を決定することで、どうやって反応が進行するようになるのか、ある程度明らかにしました。また、反応を手助けする”ルシフェラーゼ”をわずかに変更するだけで、発光色が赤色に変わるという現象も立体構造から明らかにしました。

しかし、発光反応の本質である、”なぜ光るのか?”という命題はこれだけ科学技術が進んだ今でさえ、未だわかっていないことです。ほとんどの方(一般の方から、最先端の研究者まで)は、”なぜ光るのか?”なんてことは一番最初にわかっていて、それ以外のちょっとしたことを研究しているんでしょ?ぐらいの感覚です。これは多くの研究で同じ状態だと思います。

 

みなさん、ぜひ未だ明らかになっていない自然現象の解明への第1歩を踏み出し、深い研究の扉を開き、ぜひ楽しい人生を過ごしてください。

中津亨

 

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